体のこと、あれこれ

環境依存症候群

2020年6月30日

あなたの周りには時や場所や周りの状況に関係なく、シャープペンを見ると必ずカチャカチャとノックし続け、ハンマーを見ると所かまわずトントンと打ち続けるような方はいるだろうか。
あるいは誰かに指示されたわけでもないのに目の前の人の動作を真似してしまうような方はいるだろうか。
そのように、なにか物品を見るとそれに関連した動作や、目の前の人物の動作の模倣を、時間や場所に対する配慮もなく、相手に対する気遣いもなく行ってしまう症状がある人は、もしかしたら環境依存症候群かも知れない。
その人の行動は目に入る物品から想起される動作や、目に入る人の動作によって規定されてしまう。
つまり、周りの環境状況によって自分の行動が規定されるので環境依存症候群と呼ばれる。
脳の前頭葉の役割は、行動・行為・運動を制御・調整することである。
目や耳から入った映像や音の情報に対し、自分が今置かれている周りの状況も加味しながら、どのような反応をしたらいいのか、あるいは何もしないほうがいいのか、様々な判断のもとに人の行動は選択される。
その前頭葉の働きが脳の損傷によって障害されると抑制や調整が外れるため、後位脳によって様々な刺激(目に映る物品、人の動作、言葉、文字など)に対して、自動化されたような行動を反射的に行うようになる。
前述のように物品から想起される行動を取る、あるいは人の動作を模倣する、人の言葉を反復するなどといった形で反応が現れる。
もちろん、前頭葉に障害を持った人が全て環境依存症候群になるのではなく、前頭葉に障害を受けた人に現れる一つの症状である。
あるケースでは介護者が首をかしげるのを見て同じように首をかしげる模倣行為を行い、
相手の言葉をそのままオウム返しに答え(反響言語)、
なにかの言葉につられて即座に歌を歌い出し、
ほかの患者さんへの質問に対して先んじて応じ、
視覚に入った看板の文字をいちいち読み上げる(強迫的音読)
などの症状が見られたという。
また、物品や検者の動作が提示されても反応しないよう指示されていても、物品の名称を呼称し、検者のチョキの形の手に対しては「チョキ」「V」「2」などと言語化して強迫的言語応答が見られるという。
別のケースでは検査時、患者の前に紙とハサミを置くと、なんの指示もしていないのに紙を切り出す。
検者が「紙を切らないでください」というと、検者を見て一時その行為は止まるが、手元を見るとまた切り出すという。
また、「真似をしないでください」という指示を出しても、目の前で手を振る、敬礼をするなどの動作をすると、数秒後にその模倣をしてしまう。
そうした模倣行動は発症後6ヵ月が経過しても継続していたとのこと。
脳梗塞を発症した60歳代の女性は運動機能の麻痺は全くなかったが自発性が低下し、日常生活全般に介助を要する状態だった。
歩行は言葉による促しに反応せず、誘導にも抵抗し、歩き出しと静止には介助が必要であった。
訓練を開始してまもなく手引き歩行が可能にはなったが、訓練室内で物品や刺激が入ると注意散漫になるために、比較的物品の少ない廊下での訓練を行った。
食事は、箸を提示すると右手で箸を持って食べ物を掴んだり、離したり、まれに口元まで運ぶこともあった。
しかし、開口せず実際の食事摂取にはなかなか繋がらなかったようである。
箸を使うことと、口を開くこととの協調性が低下していたのである。
介助で口元に運ぶことに対しては抵抗し、また、多数の皿があると注意散漫になるなど、食事摂取困難なため、彼女のリハビリの目標は「経口から栄養摂取できる」というものになったという。
看護・介護・リハビリスタッフの食事介助で、6~10割摂取するのに1時間の時間を要したとのこと。
環境依存症候群を提唱したレールミッテのケースでは、彼の自宅を訪問した患者は絵が壁から外れているのを見て釘とハンマーで絵を壁に固定したという。
また、寝室を見せると、患者は服を脱ぎ出し、ベッドに寝てしまったという。
まるで自宅にいるかのように。
このように患者には自分の置かれている状況が理解できず(状況無視)、環境刺激からの影響を排除できない(環境固着)、という現象が見られる。
原因は前頭葉の障害であることは分かっていても、その再構築はなかなか難しい。
現時点では粘り強い再学習(リハビリ)しか方法はない。
麻痺はないのに行動を制御できない世界とはどのような感じだろうか。
こうして見ると、人を人たらしめているのは前頭葉の働きなのかもしれない。
これもまた脳の不可思議さを感じさせる事例である。

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