体のこと、あれこれ

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  • 2019年4月4日

    私たちの体は体内で生まれた老廃物を排出できるよう様々な機能が備わっている。
    その内の一つが腎臓である。
    腎臓という臓器は肝臓のように再生はしないので(少なくとも今は)、病気等の原因でその機能が衰えてしまった場合には「人工透析」という手段でフォローしなければならなくなる。
    テレビでも時折紹介されるが、人工透析はいろいろな意味で患者負担の非常に大きい医療行為である。
    東日本大震災の際にも多大なる困難を強いられたことは記憶に新しい。
    しかし、実は透析には私たちが通常の人工透析と聞いてイメージする、患者さんがベッドに寝て、血管にカテーテルを入れて血液を抜き出し透析する「血液透析」という方法の他に、腹膜を通して透析する「腹膜透析」という方法もある。
    腎疾患を抱えておられる方が身近にいなければ、一般の方はあまり知る機会はないかも知れない。
    それは日本での普及率の低さに原因があるようだ。
    実は自分も数年前にその存在を偶然に知ったのである。
    世界的には随分と普及しているというその「腹膜透析」。
    一体どのようなものだろうか。
    お腹に手を当てた時、お腹の中の様々な臓器と、手のひらとの間には何があるだろうか。
    外側から見ていくと皮膚、脂肪、筋肉が存在し、その次にあるのが腹膜である。
    下図でいうと、青い部分が腹膜である。
    Wikipediaより
    図では腹膜の存在をイメージしやすいように臓器から離れているし、臓器同士も離れているが、実際はそれぞれもっと密着して存在している。
    臓器と臓器の間に腹膜が入り込んでいるのは、臓器同士の直接触れ合うことで生じる摩擦を避ける役割をこの腹膜は果たしているのである。
    腹膜の表面には毛細血管が網の目のように存在しており、この膜を透析膜として利用するのが「腹膜透析」となる。
    具体的には下図のような仕組みとなる。
    東京女子医科大 腎臓内科サイトより
    透析液を腹膜内へ注入する。
    腹膜をびっしり覆っている毛細血管を流れる血液と、腹膜内の透析液の間には浸透圧の差があるので、過剰な水分、不要な老廃物、尿毒素、電解質などは透析液へと移動する、という仕組みである。
    しかしまあ、よくこのような方法を思いつくものである。
    実はこの方法が考案されたのは、なんと1923年だという。
    100年程昔にはもう考案されていたのである。
    きっかけは尿毒症に陥った腎不全患者の胸水を吸引して、代わりに生理食塩水を注入したところ、尿毒症の症状が緩和したことだったという。
    その後、1940年代にはブドウ糖を用いた浸透圧による除水の有効性が確認されるなど徐々に発展していき、1960年代にはその簡便さから腎不全患者の中心的な治療法になったこともあるとのこと。
    しかし、日本ではかかる時間の割には透析効率が低いことや、一方で血液透析法の技術開発も進んだため、広く普及しなかったという。
    そして、1976年アメリカの医師モンクリフらによって、現在のような1日4回程度の透析液の入ったパックを交換するだけで良い方法が開発された。
    血液透析の場合、1回に4~5時間を、週に2~3回の通院しなければならない。
    長時間の拘束を余儀なくされるので、この「腹膜透析」は仕事上の問題も含め、患者のQOLを飛躍的に向上させるものとして画期的なものとなったのである。
    1日4回の交換は自分で行い、朝起きた時に自宅で、昼には職場で、夕方は自宅か職場で、夜は就寝前に交換することになる。
    現在では夜間の睡眠中に自動腹膜透析装置を使って行う方法もあり、これだと1日のうち昼に1回パックの交換をするだけで済むというので、さらに負担の少ない方法が開発されたということである。
    ただし、この腹膜透析にも欠点はある。
    本来この腹膜は透析のための膜ではないので、長期間やり続けると硬くなってしまうという。
    そのため、5~7年程度で腎臓移植か血液透析など別の治療法へ移行せざるをえなくなるのである。
    また、常時カテーテルを入れっぱなしにしなければならないために、その管理を徹底しないと感染を起こしてしまう恐れもある。
    その他にもそれぞれ利点・欠点があるので、下記の表をご参照いただきたい(岩手県立中央病院 腎臓・リウマチ科医長 吉川和寛先生の原稿より)。
    利点・欠点それぞれある人工透析だが、ヨーロッパの多くの国では透析患者さんの2割前後の方が腹膜透析を行っているとのこと(デンマーク24.7%、オランダ25.6%、スウェーデン22.4%)。
    対して日本では4~5%にとどまっているという。
    なぜ日本では普及率が低いのだろうか。
    あるサイトでは血液透析の施設が多いため、気軽に通院できること。
    反対に腹膜透析ができる医療機関、医療スタッフが血液透析に比べて圧倒的に少ないこと、などが原因としてあげられていた。
    また、あるサイトでは患者さん自身の声として「被嚢性腹膜硬化症(腹膜が硬くなってしまうこと)が怖い」というコメントもあった。
    効率やQOLのことを考え、つい腹膜透析をもっと普及させればいいのにと思っていたが、それをなかなか許さない社会背景というものもあり、また、何よりもっと複雑な患者さんの思いがあることが分かる。
    しかし、再生医療が発展し、再生腎臓移植があと10年ぐらいで人への臨床応用が始まるとも言われ始めている。
    それがオーソドックスな治療法となるには更にもう少しの期間が掛かるとは思うが、もうそこに見え始めてきている今、合併症のリスクをあまり恐れず、QOL改善をもっと大きな理由として治療法を選択してみてもいいのではないだろうか。
    それにしても、医学・科学の進歩とはなんと凄いものだろうか。
    時代についていけなくなる年寄りの嘆きをよく耳にするが、そろそろ自分にもその順番が回ってきそうである(笑)。
  • 2019年2月13日

    最近テレビやラジオでよく聞かれる「ヒアルロン酸」や「コンドロイチン」という物質。
    これらはすべて「ムコ多糖」という物質の仲間である。
    「ムコ」はラテン語のmucusから来たもので、動物の粘液分泌物の意になる。
    ストレートに読めば「粘性のある多糖類」ということだろうか。
    種類がいくつもあり、体の中での役割は軟骨の主成分、皮膚の結合組織、へその緒、目の硝子体に含まれるヒアルロン酸、血液凝固を阻止する物質・ヘパリン等々体中の様々な場所で「ムコ多糖」は働いている。
    もっとミクロ的にみると、「ムコ多糖」は細胞同士の接着にも使われている。
    そして常に合成と分解がくり返し行われ、常に入れ替わっているのである。
    分解にはそれぞれ特定の酵素が使われているのだが、その酵素がなくなると、不要なムコ多糖が細胞内に蓄積していくことになる。
    それによって生じる病気を「ムコ多糖症」という。
    ムコ多糖には様々な種類があるので、それぞれに応じて分解酵素も様々な種類がある。
    なので、どの分解酵素が欠如するかによって病気が異なってくる。
    今回取り上げるハンター症候群はムコ多糖症Ⅱ型である。
    ちなみに、ムコ多糖症はⅠ型からⅨ型(ただしⅤ型とⅧ型は欠番)の7種類がある。
    ハンター症候群は1917年にハンター医師によって報告されたのでその名がついた。
    「イズロン酸-2-スルファターゼ」という酵素の欠損によって起こる遺伝子疾患である。
    ムコ多糖症の中では唯一の性染色体劣性遺伝で男性のみの疾患である。
    日本では年間5~10人が病気を持って生まれ、現在では200人弱の患者がいると推計されている。
    世界的には11~13万人に1人の発症率とされている。
    生まれた時点では他の新生児との外見上の違いは見られないが、成長に伴い、1~2歳ごろから特徴的な身体機能(特徴的な顔貌、骨変化、角膜混濁、関節可動域の低下)や、精神発達地帯が観察されるという。
    特徴的な顔貌とは頭のサイズが大きくなり、前額突出、低い鼻梁、広がった鼻翼、眼間乖離等々となる。
    身体的にはがっしりとした太く短い躯幹・四肢、厚く張った皮膚等々があり、内科的には肝脾腫、心雑音、心不全、難聴などがみられる。
    重症度によって寿命に開きがあり、10~15年から60年とされている。
    1917年に初めて報告され、何らかの酵素の欠損による疾患であることは分かっていたが、長年その原因酵素は不明であった。
    1973年に欠損酵素が明らかになり、1990年に酵素の遺伝子配列が明らかになったことによりようやく治療の道が開けたという。
    疾患の発見から治療の道が開けるまで、なんと73年。
    本当に長い道のりだったようである。
    2006年以降に本酵素の補充療法の臨床試験が報告され、有効性が証明されたのである。
    ただし、この時点では身体的な症状を遅らせることが可能になっただけで、中枢神経症状に対する有効性は認められていなかった。
    それは脳に「血液脳関門」と呼ばれる特別な防御システムがあった為である。
    この「血液脳関門」というシステムは脳を異物から守るために「決まった物質」以外は侵入させないようになっており、その働きのため酵素を脳にだけ届けられなかったのである。
    しかし、2017年3月、日本の製薬会社が「決まった物質」と一緒にその「血液脳関門」を通過させて神経細胞に届ける技術を開発したとの記事が出た。
    まだ動物実験の段階とのことではあるが、こうして少しずつ不可能を可能に変えることができたことは非常に喜ばしいことである。
    https://mainichi.jp/articles/20170319/ddm/041/040/056000c
    ムコ多糖症Ⅰ型のハーラー症候群、Ⅲ型のサンフィリッポ症候群、Ⅳ型のモルキオ症候群、Ⅵ型のマロトー・ラミー症候群、Ⅶ型のスライ症候群、そしてムコ多糖症Ⅸ型(このタイプは全世界で数例の患者が報告されているのみ)。
    それぞれ似た症状を呈するものもあれば、全く異なる症状のものもある。
    ムコ多糖類が分解できずに細胞に蓄積されることで、発症する疾患がこれだけあるということだ。
    それぞれの分解酵素のどれ一つとして欠損してはならないのである。
    いつも感じることだが、先天的な病気もなく生まれるということは、病の数を知れば知るほどにどれだけ奇跡であることかが分かる。
    「関節の軟骨」としてしか聞いていなかったヒアルロン酸という言葉を、これからはもっとありがたみを持って聞くことになるだろう。

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