体のこと、あれこれ

新着記事一覧

  • 2018年9月28日

    戦争から戻った兵士のPTSD。
    幼少時のトラウマ。
    事故の記憶。
    消し去ることができたら、どれだけ生きやすくなる記憶の多いことか。
    そんな思いを抱えた人にとって、「記憶を消すこと」は切実な願いだろう。
    世の中には自分の都合の悪いことは「記憶にない」人がたくさんいるので、どうすればそんなに簡単に記憶を消せるのか、苦しむ彼らに教えてやってほしいものである。
    冗談はさておいて、調べてみると意外にも多くの「記憶を消す方法」が研究段階のものも含めて提唱されているようである。
    ○レーザー照射というSFチックな方法
    これはカリフォルニア大学での研究。
    記憶とは脳の神経線維のつながりがどんどん形成されることで蓄積していく。
    そのつながりを特定の周波数の光学レーザーを用いて強めたり、弱めたりすることで記憶を消し去ったり、思い出させたりすることができるというのである。
    実験はまだマウス段階で、脳に直接照射するやり方で行われている。
    脳の特定の神経にレーザー光線を当て、刺激を加えると同時に足へ電気刺激を流す。
    それを繰り返すと、脳の神経にレーザー光線を当てるだけで恐怖を示すようになる。
    これがいわゆる「トラウマ」が形成された状態だろう。
    その後、今度は足への電気刺激がない状態で別の低い周波数のレーザー光線を同じ神経に当てる。
    すると、先に形成された恐怖はなくなるというのである。
    記憶が上書きされたのである。
    上書きされた神経に、以前の周波数のレーザー光線を当てても恐怖の記憶はよみがえらないそうである。
    しかし、このマウスに高電圧ショックを与えると、恐怖の記憶がよみがえり、最初の周波数のレーザー光線を神経に当てると、足に電気刺激がなくても再び恐怖がよみがえるのだとか。
    外部からの骨や皮膚を介した状態でも、特定の神経のつながりの形成を左右しうる刺激を見つけることができれば記憶の消去など簡単にできるのかもしれない。
    「まさにSF!」
    と言いたくなるような技術ではあるが、まだまだ不安定なようでもある。

     

    ○古い映画にでてくるような電気刺激による方法

    こちらはオランダのラドバウド大学で行われている実験。
    重度のうつ病患者の思い出したくない嫌な記憶の消し去りに成功したという。
    前頭部の皮膚上に電極を当て、通電することで人為的にけいれん発作を起こすのだとか。
    もともと統合失調症に対する治療として考案されたものとのこと。
    42名の重度のうつ病患者に自動車事故と暴行の写真を見てもらう。
    しばらくしてから一枚の写真について思い出してもらう。
    その思い出した瞬間に電気ショックを与える。
    1日経ってから2枚の写真について質問をすると、電気ショックを受けた写真は思い出せなかったが、そうでない写真については明確に答えることができたとのこと。
    これは、
    「記憶は利用されるたびに脳の回路に再び書き込まれる」
    とされており、その再固定化の過程にある時に破壊されやすくなると考えられているそうだ。
    一枚の写真を想起しようとしたタイミングで電気ショックが与えられたことにより、脳の回路への書き込みが邪魔され、破壊されたということのようである。

    その効果の持続性や古い記憶にも効果があるのかどうかはまだ分かっていないそうである。

    ○薬を使った怪しげな方法
    これはアメリカ・ヴァージニア州・コモンウェルス大学の研究。
    薬を使うと聞くとどうも怪しげな雰囲気を感じてしまうが、極めてまじめな実験のようである。
    それは多発性硬化症という病気の治療で使われる「フィンゴリモド」という薬をマウスに与えると、肉体的苦痛にまつわるいやな体験を完全に忘れてしまうというもの。
    市場ではジレニアという商品名で出ており、免疫システムを抑制することで多発性硬化症の症状を軽減させているという。
    その薬を、軽い電気ショックを与えられ、恐怖で固まって動けなくなってしまったマウスに与えると、すぐに動き回ることができるようになったというのである。
    研究者らはPTSDや不安障害の補助薬としての利用を検討しているという。
    薬による方法では、ハーバード大学やカナダのマギル大学では心臓病疾患に使用される薬による方法が実験されている。
    これはトラウマによる心拍数上昇に苦しむ患者に対し、原因となった出来事を思い出しているときに薬を服用してもらうと、一週間で症状の軽減が見られたそうである。

    この報告を見る限り、出来事そのものを忘れるというよりは、それを想起しても体が反応しなくなるので、その記憶が「悪い記憶」ではなくなるということなのかもしれない。

    ○心理学に基づく方法
    いうなればこれが最も現実的な消去法となるだろうか。
    いやな記憶を思い出す際、それを想起させる歌や音、においや景色といったものがある場合、いやな記憶と結びついているそれらを別のものと結びつけることで意図的に忘れることができるという。
    ダートマス大学とプリンストン大学で行われた実験は、被検者に森林や山、海岸など屋外風景を見せながら、無作為に様々な単語のリストを見せる。
    それら一つ一つについて、それぞれ「忘れる」か「覚える」か指示する。
    すると、「忘れる」と指示された単語のときに見ていた風景に関する神経活動も追い出されることがMRIの測定で分かったという。
    つまり、これは母親について考えたくない時は、母親の料理についても頭から追い出されてしまうようなものなのだそうだ。
    このMRI画像上での追い出し現象の活発さから記憶した単語の数も予測できたという。
    この忘却の原理を利用すると、例えばつらい失恋の記憶とそれを想起させる歌などがある時、その歌をジムで運動しながら聞くなど、全く違った環境で聞くことで、その歌は運動の爽快感と結びついたものに変わるというものである。
    なお、もっと自分自身と向き合うことでいやな記憶と対峙してみたいと考えられる方は以下のサイトを参考にしてみるのもいいかもしれない。
    https://matome.naver.jp/odai/2138571604164949101
    「記憶をなくす」ことは、心の平穏を取り戻すには有効だが、失敗から教訓を学ぶためには無くしてはならない苦い思い出もあるのもまた事実である。
    戦地で心ならずも犯してしまった非人間的な行為のためにPTSDを発症してしまったとして、その記憶がなくなれば本人は生きやすくはなるかもしれない。
    しかし、本人以上に喜ぶのは兵士を戦地へ送り込みたい人々である。
    PTSDに苦しむ兵士の姿も反戦運動につながる要因の一つとなっているからだ。
    そして、記憶はなくなっても行為そのものは残る。
    もしその行為によって傷ついた相手があったとしたら、相手の傷の修復なしに、本当の解決にはなりえない。
    自分の犯した罪を償おうとしたとき、そこにはやはり悔恨の思いがなければならない。
    つまり記憶をなくしてはならないのである。
    同じ戦場でのPTSDでも、死への恐怖で受けた傷は取り除くべきかもしれない。
    上記同様、戦地へ兵士を送り込みたい人々にとって利するものではあるが、兵士自身に罪はないのだから。
    また、「他人の記憶をなくす」ことで悪用される可能性もある。
    いずれ、「記憶をなくす」ことについては技術的な問題よりも、倫理的な、道徳的な問題が多く含まれているようである。
    辛い記憶は本当になくした方がいいのだろうか?。
    もし、なくしたほうが良いのなら、どこまでが許されるのだろうか?
    どんな記憶ならなくすことを許されるのだろうか?
    ちなみに、巧みな誘導者にかかると、自分が犯してもいない犯罪の記憶を植え付けられることもあるとか。
    人の記憶とは自分で思っている以上に曖昧なものだとはよく聞くが、これほど曖昧なものだからこそ、自白の強要が可能なのかもしれない。
    特殊な環境の中で責め立てられ、なんとなくそんな気になり、ついやってもいないことを自白してしまう。
    そんなことが現実にあるのかもしれない。
  • 2018年9月21日

    今回は国内の患者数が50名ほどという極めて稀な疾患である。
    この疾患は1949年にアレキサンダー氏によって報告された。
    当初は乳児期に発症するけいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れを中心に、10歳に満たずに亡くなってしまう非常に予後不良の疾患と考えられていた。
    診断は脳の病理組織で行われ、死亡した後でないと確定診断のつかない難しい疾患だったのである。
    しかし、2001年にベルナーらから患者の90%以上にGFAP遺伝子に異常があることが報告され、それ以降ようやく遺伝子検査による確定診断が可能となった。
    すると、この疾患には成人以降に発症し、進行も比較的緩やかなケースが存在することが明らかになったのである。
    診断法が確立されるまでに実に50年以上もの年月がかかり、それによって実は新たな患者層の広がっていたことが明らかになったのである。
    成人期にも患者層の広がりが見つかったことで、現在この疾患は以下の三つの型に分類され、診断は各症状とMRI検査にてこの疾患が疑われると遺伝子検査が行われるという。
    日本では約50名の患者さんが昨年7月の時点で確認されている。
    新生児から60~70歳の年配者まであらゆる年齢で発症する可能性があり、起因に関連する体質、食事、環境は今のところ確認されていない。
    診断法がようやく見つかり、その疾患の広がりが明らかになってもまだ疾患そのものの解明は進んでいないということである。
    ① 大脳優位型(全体の約半数)
    乳児期発症で、けいれん、頭囲拡大、精神運動発達の遅れを主症状とする。
    ② 延髄・脊髄優位型(全体の約1/3)
    学童期あるいは成人期以降の発症で、嚥下機能障害、手足の運動機能障害、立ちくらみ・排尿困難などの自律神経機能障害などを主症状とする。
    ③ 中間型(全体の約1/5)
    上記両型の特徴を認める。
    原因はGFAP遺伝子の異常と考えられている。
    この遺伝子は脳の「アストロサイト」という細胞を支える働きを持つという。
    この「アストロサイト」が機能障害を起こすことで発症するのだが、「アストロサイト」の役割は脳の神経細胞や血管などと情報伝達を行うことで脳の機能を制御することである。
    中枢神経系統のどこの「アストロサイト」が機能障害を起こすのかで、大脳優位型か延髄・脊髄優位型か、あるいは両方の特徴を持つ中間型か、に分かれるのである。
    なお、発症年齢別の分類法もある。
    いずれ、上記の分類を見ても類推できるように、発症年齢が若ければ若いほど予後が非常に悪く、新生児での発症では2年ほどで死に至るケースが多いという。
    ちなみに、頭囲拡大とは水頭症のことである。
    脳は脳脊髄液という液体の中にある。
    脳脊髄液は常に新しい液が作られると同時に吸収もされており、常に適切な量に保たれている。
    しかし、何らかの原因で脳脊髄液が過量に作られるとか、吸収がうまくいかないような状態になれば、脳脊髄液が溜まり続ける。
    すると頭蓋内の圧力が高まり、その圧力に押され頭囲が拡大していくのである。
    そうした脳への圧迫自体もまた脳の機能障害を引き起こすこととなる。
    なので、溜まりすぎた脳脊髄液を腹腔内へ逃がしてあげるシャント術という治療がとられる。
    ところで、遺伝子疾患となると、気になるのは遺伝するのかどうかということ。
    この疾患の場合、常染色体の優性遺伝なので、両親どちらかに症状があれば50%の確率で子供は異常遺伝子を保有することになる。
    一方で大脳優位型のほとんどのケースと、延髄・脊髄型の約半数の患者さんのご両親はGFAP遺伝子に異常がない。
    つまり、この疾患全体の60%強の患者さんの両親にはGFAP遺伝子の異常はなく、突然変異での発症となるということ。
    これは何を意味するかというと、もし自分の子供にこの病気が発症したとしても、遺伝子検査をして夫婦とも異常がなければ次に生まれる子が発症する可能性は極めて低いということである。
    それにしても突然変異での発症がこれほど多いとは・・・。
    起因に関連する体質も食事も環境もなく、遺伝子の突然変異で発症するのだとしたら、これはもう本当に誰も責めることのできない運命としか言いようのない疾患である。
    話はちょっとずれるが、私たちの周りには健康上あまり勧められない食べ物は結構ある。
    そして、そういうものに限って大量のCMが流されたりもする。
    何を食べるかは基本的に自分で選ぶのではあるが、同時に私たちの消費行動はCMに大きく左右されることもまた事実である。
    そうでなければCMを流す意味がないからだ。
    だとすればあまり勧められない食べ物につい手を伸ばしてしまう責任は100%自己責任なのだろうか。
    タバコにある程度規制がかかっているのと同様に、多食で健康を害する恐れがある物はCM回数に限度を設けるとか、多少の規制をかけた方がいいかもしれない。
    せっかく防げる病気なのであれば。
    話を戻そう。
    この疾患には有効な治療法はまだない。
    痙攣を生じる場合には抗てんかん薬を処方するなど、いわゆる対症療法的な治療が中心となる。
    運動機能障害には力が入らない、手足の突っ張り、バランスがとりにくいなどの症状があるが、個人差がある。
    適切なリハビリテーションと、必要に応じた補助具の使用、むせなどの嚥下障害がある場合には食事内容の工夫も必要である。
    現場では医療人が頑張っているのだろうが、何とか根本治療が見つかってほしいものである。
    日本でいえば発症率わずか0.000039%の疾患だが、突然変異で自分も含め、誰にでも起こりうること。
    早く疾患の解明が進み、治療法や予防法が確立されて欲しいものである。

所在地

〒020-0886 
岩手県盛岡市若園町10-45

営業時間

平日/9:00~19:00 
土曜・祝日/9:00~17:00

休日

日曜日

TEL

019-622-5544